鍋島淳裕

「出会い<『ラザロ』撮影日誌>」


井土監督との出会いは数年前、台湾での ひと月間ほどの撮影でした。

猛暑の中での撮影を終えて、ホテルに帰ってきてからの語らいは忘れることができません。

それまで 東京で1、2度会っただけでしたので、お互いのことはまったく知らずにいました。カメラマンとして仕事をして

いる私ですが、脚本家と知り合いになる機会は意外にもなく、“脚本家 井土紀州”との映画についての話はたいへん興味

深いものでした。

その日に撮影した映像をチェックしながら、その内容や全体の構成について監督としての井土さんと打ち合わせをしている

うちに、話は台湾の風土や人々、台湾映画へとふくらみ、最後にはそれぞれの映画の記憶へと羽ばたいていきました。

井土さんの映画に対する記憶は驚異的なものがあり、様々な作品の名シーンを感動的に話していました。その分析がまた

大変おもしろく、日本に帰ったらすぐにでも観たくなってしまうほどでした。そのシーンはなぜ素晴らしいのか、そこに

いたるまでにはどのような工夫がなされているのか、人と人の関係性はいかにして生まれ作られているのか、事細かに脚本

の観点から話してくれました。それは、カメラマンとしての私には かなり新鮮な話だったのです。

私のほうも、いままで経験した撮影現場でのエピソードや、映像としてシーンを構成していくためにはどんなことをして

いくのか、登場人物が存在している場の空気感をいかに表現するのか、芝居の力をどんなふうにして捕らえていったら理想

的なのか、とりとめもなく話していました。

そうしたやりとりを繰り返すうち、お互いに自分にはないものを感じていったのです。

そして井土さんが作るならばと、「枯れた水」(「蒼ざめたる馬」篇の仮題)に参加することになりました。


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