井土紀州

「悪女」


小学生の頃に通っていた歯医者の待合室には、少年向けのマンガや雑誌などは全く置かれておらず、あるのは女性週刊誌や

芸能雑誌ばかりだった。時間つぶしのために、それらの雑誌を読み始めた時に出会ったのがわたなべまさこや牧美也子の

マンガで、何故かそれらのマンガのタイトルには「悪女聖書」や「悪女白書」という風に《悪女》という言葉がちりばめら

れていた。タイトルも印象的だったが、何よりも衝撃的だったのは、その内容だ。そこに描かれた女たちの残酷さ、狡猾さ、

執念深さに、幼い私は心底から震え上がり、虫歯治療の恐怖など吹き飛んでしまったほどだ。そして、紙面に漂う濃厚な

エロス。ともかく私は初めて読む大人のマンガに釘付けになった。


歯医者の待合室で出くわしたわたなべまさこのマンガから、本当に女は恐ろしいと思うようになった。その頃は、自分の母親

や同級生の女の子たちが、突然、普段とは違う恐ろしい別の顔に変身するのではないかと怯えていたくらいだ。しかし、虫歯

の治療が終わり、女性週刊誌からも遠ざかると、私は周りの連中と同じように再び少年マンガに熱中するようになって、悪女

の世界のことも忘れていった。そして、現在まで私はそれらのマンガを読み返していない。


だが、今思えば、『ラザロ』の主人公マユミのルーツは、わたなべまさこや牧美也子のマンガの登場人物たちのような気もす

る。機会があれば、読み返してみよう。

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